【有料の親切】Bonjdour〜Dakhla-西サハラ
2018年12月6日
この日のことは、やりきれなさが入り混じった複雑な感情があり、鮮明によく覚えている。
モロッコの港町カルタヘナを出発してからここまで、ちょくちょく小さな交流はあるものの、ただひたすらに走っては野宿して寝る生活を続けていた。
あまりの退屈に早く何か起こらないかと街を急ぎで目指していた。人でも食べ物でもなんでもいいから楽しみがほしかった。
今日の目標の半分まで走りきり、昼下がりにもなっていて「あともう一踏ん張りしよう」としたところに、小さな村が見えた。
その村は村と言うには建物が丈夫そうで、政府が立てた施設が固まった場所だった。
その一つの建物からおじさんがこっちに向かって歩いてきた。
「おい、あそこは警察だから寄ってけ」ちょっと説明が不足している大ざっぱな感じで来るように言われた。ここに来るまでに村や街に入るたびに警察や軍による検問がたくさんあったので、それだと思いついていった。
このおじさんは一般人にしか見えなかった。
建物に着くと、確かに警察がおりIDのチェックをされ「どこからきた」等の簡単な質問をされた。
一通り終わると先ほどのおじさんが「ここは泊まれるようになっていて、警察がいるから安心だ」と泊まるように勧めてきた。そして黄色いファイルを渡されて中身を見ると、さまざまな国の人たちがこの人たちに向けた感謝の言葉を書いた紙を入れたファイルだった。
それを見るに「ここはとてもいい場所なんだと」思い、泊まることを即決した。
出してくれたミントティーを飲みながらゆっくりしていると、おじさんが「温泉があるからついてこい」と言ってきた。
なんと温泉があるのか!!
温泉ジャンキーの自分はすぐさま準備して、おじさんについていった。
温泉の施設の管理している建物に旅人の写真や感謝の言葉が壁に書かれていた。
温泉はこのようになっており、モロッコでは基本的に掛け湯である。
さいっこう!!!フゥー!!!!
連日の顔に吹けつける砂嵐と日光にやられていた自分は、砂漠のオアシスならぬ温泉で一人で大はしゃぎした。
疲労もあってか、温泉をでたあとはぐったりまったりしていた。
なんとなくさっきの感謝ファイルを見返してみると気になる一文があった。
「ここはお金が必要」という文だった。
さっきのおじさんはさも無料で提供している風だっただけに、これがお金で提供されていると知って衝撃が走った。
無償の親切を期待しすぎてしまったという事が原因で、本来有料でも泊まっていたが後から知らされる有料という事実を詐欺のように感じてしまって嫌な気持ちになる。
さきほどおじさんからから言われた「あとでタジン鍋あるからたんまりたべてな」という言葉もそういうお金からきていると考えると、複雑な気持ちになる。
知らないふりをしていても良かったが、おじさんに聞いてみた。
「ここって有料なの?」なんとも言えない顔で「そうだ」と答えた。
感謝ファイルに相場も書かれていたが人によってマチマチなので、書かれていた最低料金を言ってそうそうに支払って終わりにした。
がどうしても感情は晴れない。さっきまでのおじさんの微笑みは嘘のようにさえ思えてきた。
美味しいはずの夕食のタジンも楽しめず、ベッドに早々に向かい寝た。
次の日早く目が覚めて、さっさと身支度を整えて出発しようとすると
「このファイルに書いてから出発してくれ」と言われたが「いや、やめとく」と思ってないことはできないので、断って出発した。
こういうことは提供してくれるだけありがたいが、せめてお金がかかることは初めに伝えてほしいやりきれない気持ちをこの出来事を思い出すたびに蘇る。